最近何故か急増している御当地もの。
九州というと方言を目にするだけでも何だか良い。
全体に長編が多く、じっくり読めるのは好ましい。
「鶏」怪異らしい怪異は実はほとんど無い。
しかし、引っ越しの様子といい、親戚の変化といい、怪しいことこの上ない。一体裏で何が起きていたのだろうか。色々と想像が拡がる。真相が明らかになることは無いとは思いつつも、何とも気になる。
「決まりごと」その家にのみ伝えられる不思議な風習。その由来を含めてまるで民話のような趣がある。しかもある程度祟りのような状況は続いてもいるようだ。不気味でもある。
また、磨崖仏が関わってくるあたり流石大分、と言うべきだし、仮名にしろ「安心院 あじむ」という名が登場するのもまた大分ならではか。
元々この安心院、大分の地名であり、以前一度訪れたことがある。河なり山の中のまさに渓谷美、と言えるような地域で(有名な耶馬溪の一部らしい)、そこの崖にへばりつくようにして建っているお堂(龍岩寺)とその中のいにしえの仏様が重文なのでお参りに行ったのだ。その風景をそこはかとなく思い出す。
とは言え、本当は違う名の筈なので、宇佐さんとか竹田さんとかそういった名前なのだろうか。
とにかく、本編の内容よりもそういった連想や回想の方が膨らんでしまった話でもあった。
「未確認話」いわゆるUFO(円盤)の話かと思ったらそうでもない。
そうはっきりとは分類できないようなもやっとした話がまとめられている。最後のエピソードなどは、結構面白い話ながら、それまでとは明らかにテイストが異なるので、別枠でも良かったような。完全に霊的な話のなので。
「人気のアパート」前半に現れてくる怪しい方々は、何かに引き寄せられてしまっているのか、それともそれ自体ヒトでは無いのか。そういった話かと思わせておいて、後半は王道の怪談へと突入する。しかもその場にいる語り手から後輩にメールが送られる、という現象も凄いし、その内容もなかなか。合わせ技一本といったところ。
「断片」因果関係は不明ながら不思議な出来事が積み重なっていく、という稲川系の怪談。かなり長大な話で数々の怪異が起きているにも関わらず、答えは全く出ない。アキ、というのが普通の人なのかそうでないのかも含め。ただ、最後のエピソードの哀感漂う風情といい、色々考えさせる余白の多さといい、印象的な作品となっている。
「山間に沿う」読み進めるうちに何とも嫌な気分になっていく。明確な怪異というのはさほど無いのだけれど、その障りと思えるような事件もあり、先ず第一にその家に妙に惹かれてしまう語り手の意識など、これも長編ならではのじわじわと積み上げていくことによって話の中に入り込ませてしまう。地方ならではの差別意識・偏見が今でも結構根強いことにも気付かされる。終わり近くのエピソードなどはまるで「山の牧場」のようだ。
一体そこで何が起きているのか(あるいはいないのか)、それも気になる。
今回はネタの強烈さでぐいぐいと惹き込んでしまう、というようなものは無かった。
しかし、その分じっくりと状況や人の心理を描き込むことで、さらには幾つものエピソードを次々と繰り出すことで、こちらに結構なダメージを与えることに成功している。
九州という土地の特殊性も相まって、現代の民話を語り聞かせられているような気分にもなった。
テーマやネタの特性を上手く料理した演出の勝利、と言えるだろう。
元投稿:2020年5月頃
南の鬼談 九州四県怪奇巡霊posted with ヨメレバ久田樹生 竹書房 2020年03月28日頃 楽天ブックスで見る楽天koboで見るAmazonで見るKindleで見るhontoで見る